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それは、いつになく厳かなムードで始まった。
最後の新人戦「西部日本ラテン戦」のリーパー発表

「エース・ナンバー380番、ニヒル、ジュンコ組」

おぉ、やっぱり来たか・・・
そうなるだろうことは、なんとなく読めていたんだ。
ただ読めていたのは、ニヒル君と組むことであって、
彼のエース・ナンバーへの返り咲き、これは意外だった。

誰より、当の両君が一番、ビックリしたんじゃないの?

マーカス君「エェッ?そりゃないゼ!」

ニヒル君「ふーむ・・・」

そういう気配がサァ―ッってボックスに流れたもんな。


ヨーク考えたらスゲぇーことなんだよな、これって。
あれだけ大活躍したマーカス君を次席に落としてまで、
ニヒル君をエースの座にってことでしょ。
執行部の思いはどんなだったんだろう。
「おいニヒル、リベンジの覚悟はええか? それに、ラストチャンスやぞ」
てな具合?

つまり、前回の「西部日本モダン戦」の雪辱をはらし、優勝を手にし、
関大の名前を挙げることへの期待。
そして、エース・ナンバーと恋愛パートナーの両方を、
来季、正式にゲットできるかどうかの瀬戸際だってことのメッセージ。
「ニヒル、頑張るんや!!」
執行部の熱きエールとも受け取れるが・・・

うーん、

ニヒル君はどう思っているんだろう?

マーカス君の活躍でチョイ影は潜めていたものの、
ニヒル君だってがんばっていた。
成績は、マーカス君に次いで京大部内戦・春季関西戦ともに準優勝。
結果としては、
マーカス・ジュンコ組のなり切りパワーに押された感があるものの、
実力的にはほとんど差はなし。
審査員によっては、
順位が入れ替わったってゼーンゼンおかしくなかったんじゃない!?
って感じ。


関大としては他大学からも注目される大型新人、
スタンダード&ラテンの両雄を抱え、ホクホクだ。


ん? スタンダード&ラテンの両雄?


ソウなのだ。
本人たちの気持ちはさておき、執行部も含め周りでは、
マーカス=スタンダードの雄
ニヒル  =ラテンの雄
というイメージがどうも定着されつつあったようで。

ルックスとしては、
スーッと縦長の印象が強い、
ハイカライメージのマーカス君がスタンダード向き。

いかにも柔らかそうな腰、
シッカリ目めの眉毛・まつ毛、
ちょっぴりキューバンエキゾチックな風貌のニヒル君はラテン向き…
なんて、勝手に振り分けちゃうこともできるが、
もちろん、両雄たる理由はそんなビジュアルだけに寄るわけではない。
それなら、種目の得意・不得意からくるものか?
と思いきや、実はそうでもなく、
では、成績か?といっても、
まだ2回生、これから先どうなるかわからないところもあるのに
じゃぁ何で?ってことになるのだが、それはたぶん・・・

ニヒル君のラテンダンスの才能というか達者ぶりが、


タダモノではなかったから。


ラテンダンスには、
ただ単なる努力だけではちょっと乗り越えにくそうな
“域”というものがあるじゃない?

それは例えば私たち日本人が、
どう頑張っても、
アフロ・ダンサーの人たちのボディリズムはできそうにない・・・
みたいなフィーリング。

そんな体内にしみ込んでしまっているセンスようなものを、
なぜかニヒル君は持っていた。
まぁ、そのあだ名通りのキューバ人かぁ?ってぐらいに。
器用な彼としては、
スタンダードのセンスもなかったわけではないんだけど、
周りの人間との比較で、どうしてもラテンセンスのほうが目立っちゃう。
先輩方もテクニック的に教えたいことがあっても
「まぁ、あいつは異色やで、ほっといたほうがいいやろ」
とも遠巻きに見守りたくなる・・・それほどにダントツだったのだ。

関大ラテンの将来は、ニヒル、お前に任せたぞ!
その代り、スタンダードは、マーカス、お前が引っ張っていけ!

いつの間にか出来上がってきた、そんな執行部、OB・OGの期待の想念が、
渦となって二人をからめ、
当の本人たちも、なんとなーくその気にさせられ、
って感じだったんじゃないのかな?

そういう意味でも、今回のラテン戦は絶対に外せない!!!
ニヒル君に残された道は優勝この二文字のみ・・・。



さて、ここでドッキリ話をしよう。

あれは、この辺りのシーンからやや先、夏合宿の打ち上げの席だった。
最後の競技会にマーカス君がリーダーを務めたあのY子先輩がOGとなって、
指導に来ていたんだけど、
ビールを手に挨拶にいった私に、こんな言葉をかけてきて・・・
「ジュンコちゃん、“調子”どう?」

この“調子”が、一体何に対する“調子”なのかに、
とっさに気づいてしまった私は、
一瞬、返答に困り
「あ、エエ・・・」

調子といってもダンスについてのことではなく、
リーダー、ニヒル君との関係についてのことなのだ。

つまり、
「ジュンコちゃん、ニヒル君との調子どう?うまくいってるの?」
ってこと。

重ーい話をわざとカルーく聞いているそんなY先輩のトーンに、
私は、
「あ、感づかれてるやん」


ドキっ!


で、ますます答えにくくなっていっているところへ、
衝撃的な次のひとこと・・・
「ジュンコちゃん、マーカス君のほうが良かったんやないの?」

そ、そんな、返答に困ること、ズバッとよう聞きまんなぁ。
ビールを持ったまま、マジで固まってしまった私に、
追い打ちをかけるようにしかも、少し声を殺して意味ありげに

「執行部も迷ったみたいやよ。このままマーカスと組ませるべきかってね。
二人、気ぃ合ってたから、ひょっとしたらって言うのもアリやし」


ち、ちょっと、待ってよ、Y先輩、それって
「ハイ、実は私マーカス君のほうが・・・」
なんて白状したみたいになってますヤン!!
で、おまけに“ひょっとしたら”って、何が!?
動揺しながら、口を衝いて出てしまった言葉
「あ、いえ、マーカス君も彼女いてたし・・・」
アヤヤ!何言うてんネン?
彼女いてたらドナイやねん?おれへんかったらどうしてたっていうこと?
そっちの話に言ったらあかんってわかっているのに。 

でもY先輩ったら、
追い打ちどころじゃなくなってきて、だんだん深みに・・・
「ジュンコちゃん、別におかしくないんやよ。
恋人としてはニヒル君が良くても、
リーダとしてはマーカス君のほうが良いっていう気持ち。
ダンスではアリなのよ。それはあって当然の自然な感情よ。
だからニヒル君に対して申し訳ないって思う必要もないと思うし」


ここまで“察して”もらっている・・・
ホットしたのか、私は気持が落ち着いてきて、
で、いきなりゆるんできてしまい・・・


ア、目頭が熱く、


・・・




「ジュンコちゃん、きつかったんやろ」




もう、あかん。


ついに、張り詰めていた糸が切れた・・・。



わーん!!とめどなくとめどなく、涙が。


まぁ、お酒もシコタマはいる合宿の打ち上げの席上では、
こんなシーンってもういーぱいあって、
「お前、最近どうなんや、頑張らナあかんで」的話が、
あちこちで咲き乱れ、
この時とばかり、
日頃の不満やうっぷんをぶつけ合うそんなサラリーマン予備軍もいれば、
良い意味での深いコミュニケーションを図ろうと、
心を寄せてくれる先輩・OG・OBもありで・・・。
なかなか、面白い人間模様が繰り広げられるってわけだけど、
「ココでのことは、コノ時限り、
アトに引きずらないし、口外なんて絶対シナイ」

そんなありがたーい暗黙の了解があるようで、
おかげで、
日頃は向き合えない自分に出会える機会を持たしてもらえるってことも。



ジュンコはついにたまっていた自分の思いをY先輩に、


「先輩、実は・・・わたし」          


      続く 第32話へ


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