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チョット中休み エッセイvol.85 

母なる姿

~アナタに出会えて良かった(7)~


時間にしてわずか30秒ほどの、
大変貴重な動画とは、
昨年、H さんが初めて出場した、
社会人・コンペ(ダンス競技会)での
選手宣誓の模様だった。
なぜに、貴重なのか?
理由は、声が入っているからだ。
「(Hさんが)踊っている動画は、
この先、誰かが提供してくれる可能性がある。
でも、声が入っているものは、
ほとんどないのではないだろうか」
と、ヒデ君。

H さんがワルツを踊っている映像も、探し出した。
それから、ダンス仲間との写真も。
“お母さん”やご遺族の方々は、
身を乗り出し、楽しそうに、
時に歓声を上げながらご覧になっていた。
ワタシタチは、
思い出せる限りの、
Hさんに関するエピソードを届けようと試みた。
話しながら涙が出て来ても、ひるまず、続けた。
ただ、伝えたかった。
ご遺族の方々の知るHさんが“静止画”であるなら、
そこに動きを与えたかった。
モノクロであるなら、カラーも加えたい、と・・・

ほどなくして、ご遺族の方々から、声が上がり始めた。
「仕事ばっかりして、
寂しく亡くなったと思っていたけど、
違っていたんだね」

「こんな良い方々に囲まれて、楽しかっただろうね」

「皆さんに愛されて、幸せだったのね」

安堵(あんど)の空気が流れた。
“お母さん”が、ワタシタチに向かって頭を下げられた。
「本当に、よく来てくださいました」

ヒデ君の心の声が、聴こえた。
「良かった・・・」

Hさんは、定年退職後、
ふるさと高知に戻るはず、であった。
それが、どうしてもダンスがしたい、
教室に通いたいと、
それまで住んでいた神戸のマンションの近くに
“新居”を購入されたのが1年前。
新居は、家というより“ビル”のようで、
1階をフロアーにして、自分用の練習場にスル
という話は“仲間”の間でもよく知られていた。
ワタシタチは、単純に、
スゴいな、うれしいなと思っていた。
それほどまでに、
ダンスが大好きなんだろうな、
“仲間”の近くにいたいんだろうなと。
が、今回、コチラ(高知)にやってきて、
気持ちが変わった。
神戸に残る選択は、
Hさんの中で、よほどの覚悟をもっての
決断だったのではないか、と。
優しかったHさんのこと、
ご両親のことを考えないはずは、絶対にナイ、からだ。
ご両親を“新居”に招き、一緒に暮らす夢があったのか、
ソレとも・・・

事情により、Hさんの引っ越しは遅れていたという。
最近になって、ようやく本格化?
現マンションから近いということもあり、
小さな家財道具などは、自力で、運び込まれていたようだ。
倒れたのも、台車で荷物を運んでいる最中であったそうだ。

「道で倒れていて病院に運び込まれたと、
警察から電話があった。
でも“オレオレ詐欺”だと思って、取り合わなかった。
何度か電話があったが、信じられなかった」

「病院からも電話がアリ、本当だと知った。
病院に駆けつけた時には、もうダメな様子だった」

「倒れた時、すでに心停止の状態。
手でかばうことなくもなく倒れたようで、
頭部を痛打、脳にも致命的な損傷が観られた」

「病院で蘇生が施された。
たくさんのチューブやコードにつながれ、
それだけで、しばらくは、生きながらえている状態だった」

そういった話を“お母さん”から伺った。
要所を押さえつつ、ハッキリとした口調で語られる。
ワタシは、1語1句を大切に受け止めながら、
不思議な感覚を味わっていた。
話の内容は、とんでもなくキビシいものだ。
が、“お母さん”が語られると、なぜか、温い。
すーっと、胸に入って、優しく溶ける。
“事実”を知ることで、
新たな苦しみもやっては来るが、怖くはない。
知ることで、かえって、心が落ち着いてゆく感覚だ。

“お母さん”と、
ごく自然に会話がデキルことも、驚きだった。
社交ダンス教師という職業柄
人と人とのコミュニケーションの難しさは
身にしみて知っている。
相手を傷つけやしないか?
相手から傷つけられないか?
そういった気遣いでエネルギーを消耗する中、
必死に言葉を探し、選びつつ、
会話をしなければならないシーンだって、
しょっちゅうだ。
それなのに、
年齢
環境
過ごして来た時間
さまざまな、違いをいとも簡単に乗り越え、
初対面から、ナンのてらいもなく会話ができるなんて。
絶対的な安心感に包まれながら、
ワタシは“お母さん”と向かい合っていた。

と、気づいた。
“お母さん”の言葉には“邪念”が、
一切、混じっていない・・・
邪念とは、ナニか?
負の心だ。
例えば・・・執着、も、そう(邪念)だ。
“お母さん”が、今回受けられた悲しみ、
苦しみは、想像を絶する深さだろう。
それなのに、
「なぜ、親を置いて、先に逝ってしまったのか?」
そういった、恨み言の類いが、全く感じられないのだ。
それは、
高齢なので、もう後は終わっていくだけだから、とか
死んでしまったものは、仕方ないから
といった、
“あきらめ”の上に乗っかっている感覚では決して、ない。
だから、なおさら、スゴいのだ。
おそらくは、
「私たちがいるのに、
なぜ、故郷に戻って来ないのか?」
「なぜ、結婚をして、
孫の顔を見せてくれないのか?」
そういった、心も、
持ち合わせていらっしゃらなかったはずだ。

ワタシは、“お母さん”に惹かれた。

ヒデ君も、同じだった、ようだ。
「Hさんの“お母さん”に、
ホンモノの“母の姿”を、観たわ」


      続く第2618話へ





※Real Junko Voiceはお休みです。

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