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さて、
ジュンコ先生のホールド・レッスンシーンに戻ろう。
「プリント (第68話)の内容で、他に質問のある人、いないかしら?」


「ハイ!よろしいですか?」
手を上げたのは、紀子さん。46歳。
ダンス歴20年。
男性役もこなせる実力派だ。
人気小料理屋の女将さんで、めっぽう忙しいはずなのだが、
ダンスだけは特別・・・らしい。

「プリント (第68話)④の
床を下に感じた分だけ手が上がり、
カラダの中を後ろに引きこんだ分だけ手が前にいくのを感じる

の意味と言いますか・・、感覚がわからないのですが・・・」


「了解。ここはたぶん他のみんなにとっても難しかったところでしょうね。
じゃぁ、ちょっと詳しく説明するわね」


おもむろに先生は白板の前に行き、大きくこう書いた。


ニ律背反性



「コレ、なんて読むかわかる?」 



「 にりつ・はいはん・せい・・・かな」

皆が口々に言いだした。



「そのとおり、では、意味のわかる人は?」



オ、和夫の手が上がった。

「一つのことを述べるのに、

相反する、矛盾する事柄が共存

していることを指します」




周りから、
「すごーい」というどよめきのようなものが起こった。



「いやぁ、大学の哲学の講義で習ったんで・・・」
和夫はちょっと照れてつぶやいた。



「そうね、ダンスの世界をひも解いていくと、哲学の世界に結びつくわね」
ジュンコ先生はそう言いおいてから、

「人間のカラダって、ある意味“完璧”なの。
どんな時もバランスが取れるように、
元から作られてあるといったら良いかしら。
その仕組みを理解すると“ニ律背反性”につながってくるわ。
例えば・・・私のマネしてね」



先生は大の字に立った。
つまり、両手は真横。
両脚は肩幅に広げている。


「いい?これで右手を向こうから引っ張られていると思ってみてね。
ソウ、そのままだとバランス崩してこけちゃうわよね」



みんなも同じようにやっている。
左足が床から離れてこけそうになる・・・



「では、同じくらい左手も左に引っ張ってみて。
どうなるかしら?」



「しっかり、立てるようになりました」
誰かが叫んだ。



「そうね。では今度は、みぞおち辺りで両手を合わせてみて。
ソウ拝むような格好ね。
で、右手だけをグッ―っと押してみて。
左ひじが左に移動するにつれて、左にバランスを取られちゃうわね」



「ハイ」



「では、左手も同じくらい押し返してみて。
ただし、
手だけではなくてカラダの中で押し合うのがポイントよ。
どうなった?」



「合わせた両手が真ん中にきて、立てるようになりました」



「ソウ!その実感が、
カラダの持っているニ律背反感覚なの」



「ふーん」
みんなが何かをつかみかけた空気が流れはじめ・・・



「ダンスをするとき、
カラダの中に起こるニ律背反感覚をうまく、
キャッチし、増幅させ、使い続けることができるようになれば
“しっかり立ちながら”
つまり、
“良いバランスを保ちながら”踊り続けることが可能なのよ。
ダンスの動きに関する話はまたの機会にするとして、

ホールドを作る時にも、

このニ律背反感覚を使いましょ!


ってわけなの」


和夫は楽しくなってきた。
実は和夫、大学でカント(ドイツの哲学家の名前)を勉強して、
「二律背反」にはその頃から興味を持っていたのだ。
ソレがこんなところで活きるなんて・・・。


「プリントの④の部分の説明に入るわね。
まず『床をに感じた分だけ手ががり』の部分。
片足どちらかに乗って、床を下に感じてみて。
つまり同じくプリントの②と同じ感覚ね。
『床からの反作用を受け、
お腹にパワーが上がってくる感じ』
その時、肩甲骨が、フット楽になる感覚があるかしら?

紀子さんドウ?」



「うーん??」



「手の力を完全に抜いてね、ソウだらーんと・・・」



「あ、

カラダをグッと下に押したら、

その反動みたいな感じで、

肩甲骨がフット浮いた感覚
があります」



「ソレよ!ずいぶんカラダの感受力が出てきたわね。
これは、
体幹部が下にグッとプレスされたことによって、
体幹部の肋骨とその上に乗っている肩甲骨の間に、
スキマができた感覚
なの。
これがとらえることができたらモウ花丸合格!
あとは、床を下に感じ続けた分、
腕がゆっくり上がっていく感じってわかるはずよ」



「あぁ、何となく・・・」



「始めは難しいから、スロー・ペースで
『下に感じた分だけ手が上がるぅ~、下に感じた分だけ手が上がるぅ~』
って唱えながらやったらいいわ、冗談じゃなく。
どんな感じかしら?」



「わぁ、わかりやすいです(笑)
カラダの中が沈む分、腕が上がっていくような・・・」



「でしょ?で、皆さん、いい? 
肩甲骨が、肋骨から離れて浮いた感じは、
湯船の中でカラダを沈めたまま、
その横で楽に両腕を浮かした感じに似ているわ」



「それ、わかりやすそうですなぁ。今晩お風呂でやってみます」
平田さんが元気な声で答えた。



「次に
『カラダの中をろに引きこんだ分だけ手がにいくのを感じる』
こっちは分かりやすいわよ。
空中で腕立て伏せするみたいに、
両手をカラダの中から伸ばして行ってね。
このときもゆっくり、
『後ろに引きこんだ分だけ手が前へぇ~』
って唱えながらやってみて。

紀子さん、どんな感じ?」



カラダの中がグーッと後ろへ行く分、手が前に出ていきます」


何か、気持ちいいです



「OK。気持ちいいのは、正しい動きができている証拠なのよ。
カラダのバランスが取れているからなのよ。
さぁ、それではさっきの上へあがる運動と組み合わせて、
ホールドを実際に作ってみましょうか!?」



各自の練習タイム。
和夫も習った通り
に感じた分だけ手ががるぅ~、ろに引きこんだ分だけ手がへぇ~」
と唱えながら、ホールド練習を続けていた。
この時、彼のカラダは何かをつかみかけようとしていた。

「これも、後で真理ちゃんと試してみよう」



      続く 第72話へ



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