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ニヒル君との練習が始まった。
ソレは愛を育てる時間・・・のはずだった。
なのに、ドーモうまくいかない。

いつもこんな様子だった。


その1
みんなから孤立した練習になる。
そりゃぁウラでは話題の恋愛リーパーなんだから、
みんな見て見ン振りしながらも実は注目の的だわね。

「アイツらどんな感じで踊るんやろ?」
「ニヒル君、ジュンコちゃんともアノだんまり練習するンやろか?」

遠くから注がれる視線。

やりにくいんだよなぁ…。
1回生同士、3~4組同じフロアーで練習していても、
ナーンか向こうも気ィ遣って避けてくるし、
こっちもわざわざ「ネェネェ、調子ドウ?」なんてムードにもならないし。

おまけに寂しいことに先輩があんまり教えに来てくれないんだな。
他のカップルには誰カレとなく上回生が付いてくれて、
「お前、もうちょっと動かれへんのんかぁ~?」で、カポン。
そして、
「オレのワルツ、ヨウ見とけよ」とばかりに、
パートナーをつかまえてスイーって踊って、
ちょっとエエとこ見せビラかそうと、
自分の持ちワザ仕掛けてみて、
「おぉ、ルミチャン上手になったね
ルミチャン大喜びで、
「先輩のリードが上手だからぁ~」
なぁンて、ワキアイアイ


いいなぁ~。


ウチにも来てくれないかナァって思っていても、
たいがいは遠巻きにして見守るだけ。
「ニヒルは上手やしなぁ。マァ、ほっておいてもエエやろう」
なのか、
「アイツに教えてもなぁ、あんまりいうこと聞きよれへんしなぁ」
なのか。

まさか練習のときから相性審査?そんなわけないやろ・・・。


その2
私がニヒル君についていく一方で練習自体が面白くない
ニヒル君はどこから仕入れてきたのか、
ダンスのテクニックについてもその頃からナンダカンダと知っていたし、
まぁ、もちろん今から思えばおかしな自論も半分くらいあったかもしれないが。
でも、実際練習となれば会話らしい会話もなく、静かーに踊り続けるのみ。

ナチュラルターン→スピンターン→リバースターン→ホイスク→シャッセ→
ナチュラルターン・・・・・・・・

その繰り返しが黙々と続くのだ。
で、カレはその当時から“理にかなった運動”がちゃんとできていたのだろう、
結構なスピードと距離が出るので、私は一生懸命ついていくのみ。

時折、
「もう少し力抜かれへんノン?」
「ここはしっかり立って」
と静かに声がかかる。

そこで私がカレの思うように動かなかったら、
「違う」とニヒル講座が始まるのだ。

「・・・」
私は言葉の返しようもなく、
ただ教わるばかり。

そういえば、前のパートナーのMちゃんが言っていたよなぁ。
「ニヒル君なぁ、色々教えてくれるネン。
良いよぉ。ダンス以外の無駄なことは一切言わへんし」



ウーン、違うんだよなぁ。


もっと、「無駄なこと」を言い合って、楽しく練習したいのに・・・。


その3
ニヒル君から注意を受けたり、彼と自分を比べてたりしているうちに、
「嫌な自分」ばかりが鼻に付くようになってきた。
つまり、コンプレックスというありがたくなーい感情の目覚め。

まず、鏡に並んで映るとニヒル君のほうがなんとなく女らしい?

ガビビィーン

ソレはどこからやってくるフィーリングかというと・・・
ダンサーの美しさの象徴、ネックライン(首周り)。

ニヒル君は撫ぜ肩で首がヒューッと長い。
背中から肩甲骨辺りも涼しげで華奢(きゃしゃ)な感じ。

私はといえば、“肩で風切ってマンネン”
背中、肩甲骨辺りも暑苦しく、ドンくさそー・・・とほほ。

また、高校のときのハンドボールでも活躍したというカレの足腰は強く、
また体もめっちゃ柔らかい。

私は“ソリ腰”
ホラ、体操選手のフィニッシュのときみたいに・・・
なんていえば良さそうだが、私の場合は単なる“腰抜け”で、
そのおかしげな骨盤の位置に連動するかのヨウに、
すべての骨格の位置が狂っていたんじゃないかしら。
ホールドをすると、右肩が上がって仕様がない。
おまけに0脚、外また・・。
今から思えばすげーカッコウしていたんだな。


しかし!
もっと問題なのは、
このコンプレックス、ニヒル君と組み始めて初めて感じたものだってこと。
ソレまではなかった・・・ということは


ニヒル君と私、相性が悪いって事!?!?


最後に、
一番悲しかったこと・・・
ソレは、
「一緒に仲良く練習できなかったこと」
そして、
「ニヒル君に褒めてもらえなかったこと」

私の理想は、
モノスゴーク愛し合っている二人が、
“優勝”の二文字を目指して心と体をあわせて猛練習に励む。
ソリャぁもう、涙と汗の入り混じった激しい練習よ。
感情いっぱいに表現しつつ、ワルツを踊り続ける。
くたくたになったジュンコ。
思わずフロアーにクズレそうになる。
「立て、立つんだ!ジュンコ!もう一曲いくぞ」
「え、えぇ、ニヒル君」
「優勝トロフィを二人で勝ち取るんだ。ナ、がんばるろう」
手を差し出すニヒル、それにすがるジュンコ。
見詰め合う、ふたり。
バックミュージックは、♪オンリー・ラブ♪・・・。
そして、みごと優勝。
でもソレは、愛し合った二人ががんばった結果に過ぎなくて。
大切なのは、目標を持ったことで、もっと鮮明になった二人の愛のありか。



ひょっとしたら、もう本当はこの頃から気付いていたのかも知れない。
ニヒル君、あなたとは何か決定的に大切にしているものが、違うってこと・・・。

そういえば、
彼の目の玉は独特で、例えば私を見ているときでも、
私の肉体を通り越してズーッと向こうを見ているようなそんな感じがあった。

そして、時にそれはとんでもなく深い慈愛に満ちていて、
私はその目が大好きだった。

そうかと思えば、
美しく透き通ったガラス玉のようで、
私はその目に強く惹かれながらも実はものすごく怖かった。

そのガラス玉が見ているものはいつも絶対に正しくって、
私のキラキラしたクロ眼(まなこ)が捕まえるものは、
無垢だけど、子供じみていて、どこか浅はかで・・・。

私はあなたといるだけで、
小さなコンプレックスを少しづつ少しづつ固めていってしまう、
そんな気がしていたんだな。

ダンスのことだけではなく、
私の持っている「なんで・ナンデ・何で?」に、
いつも確かな答えをくれる人、ソレがニヒル君。

でも、私は本当はこう言いたかったんだ。



「ジュンコはね、答えが欲しいんではないの。
あなたと一緒に探しに行きたいのよ」





競技会当日。
会場は神戸のポートピア・ホール
天井も高く美しい会場。

最高のシュチュエーションのはず、なのに。
なんだか心がどんよりして、
いよいよなはずなのに、気持ちが乗るということはなく、
競技会が始まっても、
周りの大声援がなんだかとっても遠くに聞こえて、
途中で、
「これで勝てるんだろうか?」
「ダメなんじゃないんだろうか」

そんなネガティブな自分がなぜが止められない。

お願い、ニヒル君、助けて。
「オイオイ、ジュンコらしくないぞ!がんばろうよ」
そんなニヒル君の言葉を心から待ったけど、ソレも空しく・・・。





結果は惨敗・・・5位。





人目もはばからず、号泣してしまったんだな、私。


悔しかったのか、悲しかったのか、後悔の思いか、
コレで当然だという潔い完敗の涙か、
苦しい練習が一旦は終わったという安堵の涙か、

とにかく良くは分からないが、涙がどうしてもどうしても止まらなかった。


周りの人?
そりゃぁ先輩たちはガッカリだったと思う。
でもあんまり覚えていない。

ニヒル君?
責任を果たすことのできなかったエースは、すごくすごく小さく見えた。
泣くことができない分、彼のほうがキツかっと思う。
でも、そんな苦しみさえも私と分かち合おうとはしてくれなかった。
彼はどこまでも一人で耐えようとしていたんだな、きっと。

そして最後、私にこう言った。




「お疲れさん…」




アー、もうあそこまでガンガンに泣くと人生って何か変わっちゃうのよねぇ。
なんて、いきなり楽天的ですが、
この西部日本戦以来、ホント自分の中で何かが変わっちゃったんですね。
もちろん、その“何”を追及していれば、
もっと変わっていっていた可能性もあるんだけど。
でも当時の私は、しなかった。
ニヒル君とのことも、自分の思いの深いところまでは踏み込むことはなく、
だから見た目は元のサヤに、すぅーっとおさまっていっていたんだな。


でもそんな折、またまた新たな興味の対象が現れ、
ジュンコは夢中に・・・。


             続く 第18話へ


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